今回は、育苗でランナーを取る時に使う培地についてお話します。
現在でも培地として土を使う方は多いですが、弊社では土の代わりに水苔をお勧めしています。
そこで本記事では、土を使った培地と、水苔を使った培地での違いを、メリットデメリットを交えて紹介致します。
※育苗の基本については「(基本編)育苗の流れ」をお読みください。
土と水苔の違い
A. 土を使った培地
土のメリット
1)子株を育てやすい
土自体に栄養分があり自然に根が張っていくので、子株の育苗が比較的容易に行えます。
2)挿し芽方式でも育てられる
ランナーを切り離してから培地にさして育てる「挿し芽」という方法でも育てることができます。
※挿し芽方式は生育ムラが出来にくいですが、根付かせるのに技術が必要です。
土のデメリット
1)病気が広まりやすい
病原菌がいる場合、潅水をした時に跳ねた泥を介して病気は広まります。
夏場はありとあらゆる病気が蔓延しやすい時期なので、土で育苗をするリスクは高いです。
※冬場(本圃)では潅水で病気が蔓延することは少ないです。
2)太郎苗が使えない事が多い
ランナーを切り離さずに、出てきた順に土に植えて子株を育てる場合、太郎苗が育ちすぎて老化してしまいます。
3)株の大きさを揃えるのが難しい
太郎苗が育ちすぎるのと同様に、ランナーを育てる土に栄養分があるので、ポットで受けた順に育っていってしまい、最初の方にに受けた子株と最後の方に受けた子株との差がつきやすく、株の大きさを揃えるのに高度な技術が必要です。
4)空中育苗が難しい
土は重いので省スペースで育苗をするのが難しいです。
5) 花芽形成のための肥培管理が難しい
子株を育てている土に豊富な栄養分がいつまでと残っていると花芽がつくのが遅れます。
6) 水のやりすぎに注意
過度の水やりは根腐れの原因になるので注意してください。
B. 水苔を使った培地
水苔のメリット
1) 省スペースで育苗できる
水苔は軽く、ぶら下げることができるので、割型ポットを使って省スペースで大量に育苗することができます。
2) 病気を拾いにくい
泥はねによる感染が抑えられるので病気を拾いにくくなります。
3) 生育ムラが出来にくい
親株の栄養を使って育てるので栄養調節がしやすく、太郎苗から末端の苗までの生育ムラが少なくすることができます。
※ただし、親株が肥料切れを起こすと、子株が生育ムラを起こしますので注意してください。
4) クラウン部を無理に太くしなくても花数増加が見込める
親株の栄養を使って育てるのでクラウン部に栄養が蓄積しやすく、葉をかいて無理にクラウン部を大きくすることなく、花数増加が見込めます。
5) 良質な根が出る
水苔は、水分を保ちながら酸素も供給出来るので良質な根が育ちます。
6) 花芽分化しやすい
水苔に栄養がないので、子株の培地の肥培管理に気を使うことなく、自然に早く花芽分化します。
7) 初期の土壌消毒が不要
すでに消毒済みなので、使う前に土壌消毒をする必要がありません。
※弊社で扱っているものはこの通りですが、他社で購入される場合、ものによっては異なる場合がありますのでご確認ください。
8) 水やりが比較的容易
たっぷり水をやっても傷まないので、多少水を与えすぎても育苗中の苗には問題ありません。
水苔のデメリット
1) ランナーを切ると育てられない
水苔自体に養分がほとんど蓄積しないので、親株から切り離すと子株は育ちません。
2) 土に比べると乾きやすい
土に比べると乾きやすいので、極度の乾燥には注意してください。
まとめ
土での育苗よりも、水苔で育苗をした方が病気の面でも生育の面でも育てやすいと言えます。しかし、水苔の育苗が全国的に浸透していないのには理由があります。それは昔から育苗に土を使ってきたからです。九州の試験場から始まり、育苗の培地に土を使う伝統があるために、デメリットが多くあるにもかかわらず、盲目的に土を勧める方は多いです。
弊社が水苔をオススメするのにも、しっかりとした根拠があります。弊社が割型ポットを使った空中育苗を開発した際に、培地として水苔を使うことを取り入れました。それは単なる思い付きではなく、蘭栽培を参考にしたものです。
蘭栽培では昔から培地として水苔を使っているのですが、良質な水と十分な酸素を好む蘭にとっては、水分を蓄えつつ酸素をしっかりと通す水苔は培地として好適です。水を好むいちごにも水苔は最適であると考え採用したのが始まりでした。
育苗がどうしてもうまくいかないという方は、一度培地を見直して、水苔での空中育苗を検討してみてはいかがでしょうか。
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